AIで変わる不動産業界――変革の波に乗るSaaS戦略 #4

#不動産テック #インタビュー #いえらぶの人 #いえらぶのビジネス #生成AI

2025.07.28 MON

最終回 JDLA 岡田専務理事と語る――AI活用の壁と成長戦略

外部の視点から読み解く、業界を越えたAI導入の本質

第1回から第3回にわたり、生成AIが不動産業界にもたらす可能性と、いち早く導入を進めるいえらぶGROUPの取り組みについてご紹介してきました。

▼過去の連載はこちら
第1回 AI時代の到来――「今」を理解する
第2回 AIが導く不動産テックの未来像――深化する統合と業界再編
第3回 AIには代替できない人間の価値――「ヒューマンタッチ」の重要性

本連載の最終回となる第4回は、AI活用の第一人者である日本ディープラーニング協会 専務理事の岡田隆太朗さんをゲストにお迎えし、他分野の事例も交えながら、AIがもたらす仕事の変化、そしてそれに対応するための新しいスキルセットと組織のあり方について、深く掘り下げていきます。

INDEX

1.生成AIが変える顧客体験:不可逆な変化にどう向き合うか
2.他業界の成功事例から見る、不動産業界AI活用のヒント
3.AI活用で変わる役割と価値:「作業」から「判断・創造」へのシフト
4.AI時代の人材育成:若手が自走する環境のつくり方
5.次回予告

株式会社いえらぶGROUP

  • 執行役員

和田 健太郎

2014年いえらぶGROUPにエンジニアとして新卒入社。開発とマネジメントの両面で早期から成果を上げ、多様なチームを率いて事業成長に貢献。自社のクラウドサービス開発だけでなく、大企業向けの大規模システム開発も主導する。
2024年から執行役員に就任。プロダクト開発全体を統括するとともに、いえらぶGROUPのAI戦略責任者として、生成AIをはじめとする先端技術の事業実装を推進。高度な知見と豊富な経験を活かし、不動産業務に革新をもたらすソリューション開発の最前線を担っている。大阪大学大学院理学研究科数学専攻修了。

一般社団法人 日本ディープラーニング協会

  • 専務理事

岡田 隆太朗 氏

1974年生東京都出身。慶應義塾大学在学中に起業。事業売却後事業会社を連続設立し、2012年株式会社ABEJAを共同創業。2015年攻殻機動隊Realize Projectを発足し、コンテンツを活用したアカデミアと産業の連携する場を創設。同年より、IT経営者のコミュニティイベントInfinity Ventures Summitの運営事務局を設立し事務局長に就任(現アドバイザー)。2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に一般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し事務局長に就任。2023年より専務理事。2019年より実行委員会を組成して、全国高等専門学校ディープラーニングコンテストを開催。2020年、緊急時の災害支援を実行する、一般社団法人災害時緊急支援プラットフォームを事務局長として設立。2024年一般社団法人AIロボット協会を事務局長として設立。

1.生成AIが変える顧客体験:不可逆な変化にどう向き合うか

――最終回となる第4回では、本企画で初めての外部ゲストとして、一般社団法人 日本ディープラーニング協会 専務理事の岡田隆太朗さんをお招きし、生成AIによって変わる顧客体験と業界の未来についてお話を伺っていきます。

和田 岡田さん、本日はよろしくお願いします。実はこの連載の中でも、外部の視点から話を伺える回をずっとやりたいと思っていたんですが、まさか岡田さんにお越しいただけるとは思っていませんでした。

岡田 そうだったんですね。それは光栄です。

和田 いえらぶとしてもAI導入は進めているんですが、どうしても視点が内向きになってしまいがちで。他業界ではどうなのか、あるいはこれからの時代に必要とされる力とは何なのか――そうした視点で岡田さんとお話できるのを、すごく楽しみにしていました。

―― まず、生成AIが不動産業界に与える影響について、岡田さんはどのようにお考えでしょうか?そして、業界全体が今この技術に注目すべき理由を教えてください。

岡田 まず強調したいのは、生成AIが顧客体験そのものを根本から変革する力を持っているということです。これは単なる業務効率化の話にとどまりません。

たとえば、お客様のライフスタイルや価値観、ご家族構成といった断片的な情報から、AIが最適な居住エリアや物件、さらには将来の資産価値の変動までをシミュレーションし、まさにパーソナライズされた提案を行うことができるようになる。あるいは、物件の画像から瞬時にリノベーション後のイメージを複数生成し、それをVRで内見体験として提供するといったことも可能になるでしょう。

和田 まさにその通りで、過去の記事でも触れましたが、シミュレーションやパーソナライズについてはすでにいくつかそういったサービスも出始めています。生成AI登場以降で感じているポイントとしては、査定・シミュレーションに限った話でなく、「あらゆるサービス・機能のレベルを引き上げる要素」として「〇〇×AI」という取り組みが生まれているのが印象的ですね。

岡田 なるほど、より細かな部分でも親和性が生まれていっているんですね。そういった親和性の高まりも踏まえ、今この技術に注目すべき最大の理由は、この変化が「不可逆」だからです。つまり、もう後戻りできない段階に入っているということです。

一度、一部の先進的な企業が生成AIを活用して新しい顧客体験を提供し始めれば、それが新たな「当たり前」になります。すると、これまで通りのやり方に固執している企業は、残念ながら顧客から選ばれなくなってしまう可能性が高い。これは決して不動産業界だけの話ではなくて、全業界が当事者意識を持って、この変化とどう向き合っていくかが問われていると感じています。

和田 その“不可逆”という表現、すごくしっくりきますね。まさに岡田さんのおっしゃる通りです。私たちも、AIの進化スピードには日々驚かされています。正直、1週間前の情報がすでに古く感じるような場面もあって…。この変化の波に乗り遅れてしまうと、取り残されるどころか、企業の存続そのものが危うくなる、そんな危機感を持って取り組んでいます。

―― いえらぶでは、生成AIの導入を進める中で、どのような課題に直面しているのでしょうか?

和田 一般的な課題としては、やはりデータのセキュリティやプライバシー、ハルシネーション(誤情報生成)のリスク、そしてAIを使いこなせる人材の不足が挙げられると思います。加えて、不動産業界ならではの難しさとして、物件の写真や担当者の所感といった、かなり属人的で形式が定まっていない情報をAIにどう学習させるかという点には特に悩まされています。

岡田 なるほど、それはまさに「情報の壁」ですね。不動産業界に特有の課題としては、その「情報の壁」に加えて、あと2点ほど大きな壁があると私は考えています。

ひとつは「期待値の壁」です。経営層がAI導入に即効性を求める一方で、実際の現場では地道な試行錯誤の積み重ねが求められます。そのギャップが進行の妨げになるケースが多いんですね。

もうひとつは「法規制の壁」です。宅建業法などのルールが厳格な不動産業界では、AIが生成した情報がそれに準拠しているかどうかを常に担保しなければならない。その点も難しさのひとつです。

和田 「期待値の壁」に関しては、まさに私たちが日々感じている部分ですね。「AIって簡単に導入できるんでしょ?」という認識とのギャップはかなり大きいです。私たちも既にいくつかのAIツールを本格運用していますが、実際は1000以上あるAIツールの中から、どれをどう選定し、どう業務に組み込むかにすごく時間と労力を使っているのが実情です。

岡田 そのような「壁」を乗り越えるためには、経営層が「なぜAIを導入するのか」というビジョンと覚悟を示し、そして何よりも「失敗を許容する文化」を作ることが重要になります。現場では、特定のチームで「小さな成功体験」を積み重ね、それを全社で共有していく。そうすることで「自分たちもやってみたい」という自発的な動きが生まれ、結果として組織全体がAIに向き合える土壌ができていくはずです。

2.他業界の成功事例から見る、不動産業界AI活用のヒント

――不動産業界の課題が明確になったところで、他業界のAI活用最前線についてもお伺いしたいです。特にAIの導入が進んでいる業界や、不動産業界が参考にすべき事例はありますか?

岡田 はい。他業界に目を向けると、やはり金融業界がAI導入に非常に積極的で、先行していると言えます。金融業界は、顧客の取引履歴や市場データなど、もともとすべてがデータ化されており、そのデータの扱いが非常に進んでいます。

和田 なるほど。金融業界のように、あらかじめデータが整っている環境はやはり大きなアドバンテージですね。

岡田 さらに、業界内での情報共有も活発で、たとえばブラックリストの作成など、他社と情報交換する文化がもともと根付いているんです。このため、他社の成功事例をすぐに真似できる環境が整っています。

和田 あらかじめ情報が整備されていて、他社とも共有しやすい環境というのは、本当に強みだと思います。ただ、不動産業界の場合はデータの粒度やフォーマットのばらつきが非常に大きく、そもそもデータ化されていない情報も多く残っているのが実情です。「真似したい」と思っても、なかなかすぐに適用できない難しさがありますね。経験や所感に依存する部分も多く、AIに学習させるにはまだ整備が必要な情報が多いという課題も感じます。

岡田 そうですね。ですから、まずは現場で蓄積されているデータを「学習できる形」に変換することが重要です。

和田 現場で扱う情報を“学習できる形”に変えていくというのは、私たちも今まさにぶつかっている壁のひとつです。SaaSベンダー同士の連携や情報共有も、まだまだ発展途上な部分が多いので、他業界の事例をヒントにしながら、少しずつでも取り入れていきたいと考えています。

岡田 最近の興味深い事例で言うと、ある金融系の会社では「AI上司」を導入したという話もあります。イメージとしては、「24時間365日対応してくれる壁打ち相手」のような存在ですね。

現場の社員が、自分の考えを整理したり、提案をブラッシュアップしたりする際に、AIが相手をしてくれるんです。これによって、上司に相談する前の段階で思考を深めることができ、相談の質も上がる。結果として、新しい発想や行動が生まれやすくなるんですよ。

和田 それは面白いですね。上司の立場からすると「もっと声をかけてほしい」と思っている場面でも、部下からすればやはり気兼ねしてしまう部分もあるわけですよね。そういう心理的なギャップをAIが埋めてくれるとしたら、確かに職場の雰囲気も変わっていきそうです。

――AIが生成したアウトプットの精度が完璧でなくても、業務として成り立つのでしょうか?例えば70点、80点くらいの精度でも、AI上司として機能するのでしょうか。

岡田 たしかに、AIの出力はまだ完璧ではありません。それでも、実際にその会社では全グループで導入を進めるという話が出ています。これはつまり、「100%の精度」を求めるのではなく、「まず試してみる」ことの重要性を示しているんです。むしろ、完璧を求めすぎて一歩も踏み出せない方が、変化の激しい今の時代ではリスクが大きいと感じます。

和田 その考え方は、不動産業界でも参考にすべき点ですね。目の前の課題を解決するために、まずはAIを導入し、小さく試して素早く改善するというアジャイルなアプローチが、これからの時代には必要不可欠です。

3.AI活用で変わる役割と価値:「作業」から「判断・創造」へのシフト

――AIの導入によって、私たちの仕事や役割には今後どのような変化が起こると考えられますか?

岡田 仕事の重心が「作業」から「判断・創造」へ大きくシフトすると考えています。つまり、人間がこれまで担ってきた定型的な入力や資料作成といった「答えを出す」作業からは、だんだんと解放されていくんです。

不動産業界でも、今後は「ただ物件を紹介する人」ではなく、「顧客の人生に寄り添うコンサルタント」になることが求められていくと思います。AIが提示する情報を活用しながら、お客様の価値観や将来設計に合った最適な提案ができる、そんな存在です。

和田 実際に、AIのアウトプットはかなり高度になってきています。ただ、その中には当然、誤情報や違和感のあるデータも混ざっている。私たちとしては、それを鵜呑みにせずにしっかりとチェックし、最終的に人が責任を持って判断することが不可欠だと考えています。

それともうひとつ、現場でよく聞くのが「問いの立て方自体が難しい」という声です。特に若手社員にとっては、最初から本質的な問いを見つけるというのは、なかなかハードルが高くて。そういう意味では、問いを立てる力をどう育てていくかも、今後の育成の大きなテーマだと思っています。

――それでは、具体的にどのようなスキルがAI時代に求められるのでしょうか?

岡田 私は、大きく3つのスキルが重要になると考えています。1つ目は「問いを立てる力」。2つ目が「クリティカルシンキング」、そして3つ目が「創造する力」です。

まず「問いを立てる力」について、AIは与えられた問いに答えるのは得意ですが、「何を問いかけるか」を定義することはできません。現場や顧客との対話の中から本質的な課題を発見し、それをAIに伝える力が、あらゆる業務の出発点になります。

和田 実際に、プロンプトの精度がアウトプットの質を大きく左右する場面は多いですよね。私たちの仕事でも、課題の本質を捉えて言語化する力がより重要になっていると実感しています。

岡田 次に挙げたいのが「クリティカルシンキング」です。AIの出力には、一見もっともらしくても誤りや偏見を含んでいる可能性があります。それをそのまま受け取るのではなく、多角的に考え、疑って検証する姿勢が求められます。

そして3つ目は「創造する力」。AIは論理的な構造化は得意ですが、人間の感情に寄り添うことや、まったく新しいアイデアをゼロから生み出すような創造性にはまだ限界があります。だからこそ、人がAIをどう使って価値を生み出すかが鍵になります。

和田 お客様との信頼関係を築くうえでも、やはり人ならではの“感性”や“ひらめき”は欠かせませんよね。私たちとしても、AIをただの道具として見るのではなく、共に価値を生み出すパートナーとして捉えていく必要があると感じます。

4.AI時代の人材育成:若手が自走する環境のつくり方

――そのような新しいスキルを身につけるために、若手社員の育成や教育において、生成AIをどのように活用していくのが効果的だとお考えですか?

岡田 生成AIは「24時間365日対応の優秀なメンター」として活用できる存在だと考えています。若手社員が実践的なロールプレイングをしたり、資料のレビューを依頼したりと、OJT担当者の時間的制約に縛られずに自律的に学べる環境を作ることができます。

和田 非常に興味深い視点ですね。実際、私たちエンジニアの間では「AIが進化すると、プログラミングを学ぶ機会が減るのでは」といった懸念の声もあります。設計能力を鍛える場所が失われてしまうのではないか、という不安ですね。

岡田 その懸念はよくわかります。ただ、だからこそ重要なのが「AIを使う側の意識」を持つことなんです。最終的に成果物を外部に出すときに、その品質を判断する責任は人間にあります。その“判断”を伴うプレッシャーがあるからこそ、思考が鍛えられるんです。

和田 たしかに、AIにすべて任せるのではなく、「最後は自分が確認して判断する」という姿勢が育成にもつながりますね。アウトプットの過程でAIを活用して、その分浮いた時間でインプットや考察に充てるという流れが理想的かもしれません。

岡田 まさにそうです。AIの生成物を鵜呑みにするのではなく、自分の中で咀嚼して、理解して説明できるようにする。このプロセスこそが、今後私たちに求められるスキルだと感じています。

和田 さらに言えば、「AIがなぜそう考えたのか」といったロジックの理解も重要になりますよね。また、ベテラン社員が持っている“違和感を見抜く力”や“判断基準”を言語化して、AIに学習させたり、若手がそれを踏まえて生成物を評価できるようにしていく。そんな育成の仕組みづくりが、今後の鍵になるかもしれません。

岡田 「上司と部下の関係がなくなる」というような極端な未来ではなく、人間とAIが協調しながら互いを高め合う組織が、最も現実的で持続可能な形だと思います。

――最後に、生成AIを導入した後、その効果をどういった指標で測定・評価するのが適切でしょうか?また、効果を高め続けるためにどのような改善サイクルが必要だと思いますか?

岡田 効果測定においては、コスト削減といった「効率化」の指標だけでなく、「成約率」「顧客満足度」「従業員エンゲージメント」といった、より本質的な事業成果に直結する指標で評価すべきだと思います。さらに、AIによって従業員の創造性がどう高まったかといった「定性的な効果」にも目を向けることが、本質的な価値を見極めるうえで非常に重要です。

和田 たしかに、数値化できない部分にこそ、AI導入の本当の成果が現れるというのはありますよね。提案の質や、顧客との対話の深さなどにも変化が出てきているように感じます。

岡田 おっしゃる通りです。そして、効果を高め続けるには、最初から完璧な仕組みを目指すよりも、小さく試して、結果を見て、すぐに見直す。この繰り返しを習慣化していくことが大切です。成功事例や工夫した使い方をチーム内でシェアするだけでも、「自分たちもやってみよう」という雰囲気が生まれやすくなります。

和田 その考え方は、不動産の現場でもすごく活きると思います。たとえばチャットボットや査定AIなど、新しい仕組みをいきなり全店で導入するのではなく、一部の店舗やチームでテストして、使い方や課題を共有しながら広げていくような方法ですね。

岡田 最初から全社導入を目指すのではなく、小さく始めて、成功事例や工夫を仲間内で共有していく。その積み重ねが、社内に自然と“学びと改善”の文化を根づかせていくのだと思います。

和田 私たちも、AIに関する気づきや実験結果を気軽に投稿できる社内SNSを設けていて、ノウハウを集めて蓄積する取り組みを続けています。そうした“情報を溜める場”があることで、全社的な底上げにもつながっていると感じます。

岡田 生成AIを導入すること自体が目的ではなく、それを通じて組織全体が少しずつ変化し、学び続ける文化が根づいていくことが、最終的な成功の鍵になると思います。

5.まとめ

今回の対談では、生成AIが不動産業界にもたらす不可逆な変化、そしてそこから生まれる新たな可能性について深く掘り下げてきました。本記事が皆様の今後のAI活用、そして不動産業界のさらなる発展の一助となれば幸いです。

過去連載

▼第1回 AI時代の到来――「今」を理解する
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04828

▼第2回 AIが導く不動産テックの未来像――深化する統合と業界再編
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04834

▼第3回 AIには代替できない人間の価値――「ヒューマンタッチ」の重要性
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04837

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