AIで変わる不動産業界――変革の波に乗るSaaS戦略 #1

#不動産テック #インタビュー #いえらぶの人 #いえらぶのビジネス #生成AI

2025.05.09 FRI

第1回 AI時代の到来――「今」を理解する

AIはすでに“業務の一部”――『導入するかどうか』ではなく、『どう使うか』の時代へ

AI(人工知能)はすでに実用フェーズに入り、不動産業界でも着実に活用が広がっています。価格査定・顧客対応・マーケティング・契約書作成補助など、日常業務の中でAIが使われ始めています。業界全体が“AI時代”に突入した今、不動産会社や不動産業界で働く一人ひとりがこの波をどう乗りこなすかが、今後の競争力を大きく左右します。

この変化の中で私たちは何を選び、どう舵を切るべきか――そのヒントを探るべく、いえらぶの開発部で執行役員を務める和田に話を聞きました。

本連載は全4回で、AIを起点とした不動産ビジネスの変革を体系的に読み解きます。初回となる本稿では、AIが注目される背景と現在地を整理し、AI時代を勝ち抜くための道筋を探ります。

INDEX

1.なぜ不動産業界なのか?AI導入を加速させる「必然」
2.AI活用の『今』――現場で動く3つの代表例
3.いえらぶの第一歩:現場に根ざした発信力の進化
4.今、知っておくべきこと
5.次回予告

株式会社いえらぶGROUP

  • 執行役員

和田 健太郎

2014年いえらぶGROUPにエンジニアとして新卒入社。開発とマネジメントの両面で早期から成果を上げ、多様なチームを率いて事業成長に貢献。自社のクラウドサービス開発だけでなく、大企業向けの大規模システム開発も主導する。
2024年から執行役員に就任。プロダクト開発全体を統括するとともに、いえらぶGROUPのAI戦略責任者として、生成AIをはじめとする先端技術の事業実装を推進。高度な知見と豊富な経験を活かし、不動産業務に革新をもたらすソリューション開発の最前線を担っている。大阪大学大学院理学研究科数学専攻修了。

1.なぜ不動産業界なのか?AI導入を加速させる「必然」

――AI活用が進むなかで、不動産業界に特有の事情もあったのでしょうか?

和田 不動産業界には“紙と電話”に象徴されるアナログ業務が現在も根強く残っています。物件情報の整理、書類作成、問い合わせ対応など、まさに不動産会社の業務の本質は「情報=データを取り扱うこと」ですが、いずれもその量は膨大です。それを捌くために、これまでは人手と時間に大きく依存してきました。

和田 でも実は、それこそがAI導入の必然だったとも言えます。
AIは大量のデータを高速・正確に処理し、定型作業の自動化に適しています。データが豊富な不動産業界はAIとの親和性がすごく高い。今までは、業界ならではの習慣や流れもあって、それを十分に活かしきれていなかっただけなんです。

――なるほど。もともと“データ産業”としての素地があったんですね。

和田 はい。だからこそ、今後大幅に効率化できる業務プロセスが、あらゆるところに存在していると感じています。
それこそ、「いえらぶCLOUDのすべての機能のグレードが一段階アップする」といっても過言ではないほどで、開発責任者としてはワクワクして寝る時間がとにかく惜しいくらいです(笑)。

和田 不動産業界におけるAI導入は、現場のリアルなニーズと密接に結びついています。ただ「すごい」「めずらしい」「おもしろい」で終わらないサービスを提供するというのも、いえらぶの「ITの力を使って不動産会社の業務を効率化する」というミッションに沿った使命だと考えています。

2.AI活用の『今』――現場で動く3つの代表例

――現場で実際に、AIが活躍している場面というのはどこになりますか?

和田 特に大きなインパクトがあるのは、やはり「価格査定」「顧客対応」「マーケティング」の3つですね。これらは生成AIブーム以前からも活用されていた領域なんですが、ここ数年でAIの導入が進んでおり、現場レベルでこれから活用が本格化していく段階にあると感じています。
元々はより専門的な開発技術やデータの蓄積が必要だった分野ですが、生成AIの登場により、より参入障壁が下がり、様々なプレイヤーが参加してきて進化が加速している分野であるといえます。

――順番に伺ってもいいですか?まずは価格査定から。

和田 価格査定は、もともと担当者の経験や勘に頼っている部分が大きかったんです。でも今は、AIが過去取引データや周辺環境の統計情報を瞬時に分析し、客観的かつ説明可能な査定価格を提示できるようになってきています。もちろん、最終判断にはプロの目利きが欠かせませんが、「まずAIがたたき台を出してくれる」ことで、査定業務の効率化は今後さらに進んでいくと思います。

――確かに、“意思決定の補助”としての役割は大きいですね。

和田 エンドユーザー側も一括査定サイトを通じて、数回のクリックで自宅の推定価格を調べることができます。売主さんの心理的なハードルもだいぶ下がるのではないでしょうか。

――次に、顧客対応ですね。チャットボットの話、よく聞きます。

和田 24時間365日稼働するAIチャットボットは、今や問い合わせの約6〜7割を自動処理できると言われます。よくある質問(FAQ)回答や初期ヒアリングを担うことで、担当者は交渉や提案など、より価値の高い業務に集中できます。まだまだこれから、という部分もありますが、最近はAIが一時対応から来店予約までを一気通貫で完結できるサービスも出てきていて、「最初の入口」はどんどんAIが担う時代になってきています。

――最後に、マーケティング領域についてはどうでしょうか?

和田 広告運用の最適化、これはAIの得意分野です。
Web広告のターゲティング精度と運用効率を大幅に向上させることができます。
例えば、CRM上の属性データや行動履歴を学習して、個別に最適化された物件のレコメンドをしてくれます。
広告コピーや物件紹介文の生成も進んできており、反響率アップとコスト削減の両立が現実のものになり始めています。

――今お話しいただいた3つ以外にも、AIが活きる領域はまだまだありそうですね。

和田 まさにそうなんです。生成AIの登場によって、これまで難しかった領域にも新しい可能性が広がっています。
それも、特定の限られた専門性だけでなく、「アイディア」と「業務理解」を掛け合わせることで、本当に必要な便利なAIツールが生まれていく。そんな実感があります。

――いえらぶの中でも、実際にそうした動きはあるのでしょうか?

和田 弊社の主力サービスである「いえらぶCLOUD」には、非常に多くの機能が搭載されており、それぞれの機能に対して、各開発チームが日々アイディアを出し合って、どこにAIを組み込めば価値が上がるかを議論・検証しています。
現場と対話しながら、本当に必要とされているところに、確かな技術を届けていく。そうした姿勢こそが、私たちが大事にしている「いえらぶらしさ」だと思っています。
既にいくつかの機能ではAIを活用したサービスをリリースしており、今後もAIを活用した新しい機能をどんどんリリースしていく予定です。

3.いえらぶの第一歩:現場に根ざした発信力の進化

――いえらぶとして、AI活用の中でも最初に取り組んだテーマは何だったのでしょうか?

和田 最初に注目したのは「情報発信」の分野です。
不動産会社が物件を掲載する際に必要な紹介コメントやブログ記事の作成って、実はすごく大変で。特に、日々物件入力や問い合わせ対応に追われている中で、情報発信にまで手が回らないという声は多かったです。
同時に、発信力の強化は、集客にも信頼構築にも直結する大事な部分なんです。
だからこそ、「発信のハードルそのものを下げられないか」と考えたのが、最初の一歩でした。そうして、昨年リリースされたのが「AIコンテンツ生成」機能です。

SEOに最適化された不動産ブログ記事をわずか2分で作成し、記事内容に即した画像もAIが自動生成します。
今までは数時間かかっていた業務を数分で完結させることができ、誰もがスピーディに、かつプロ品質の情報発信ができる――そんな環境の提供を通じて、不動産会社の“伝える力”を底上げしていきます。

▼AIコンテンツ生成についてはもっと詳しく知りたい人はこちら
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04813

4.今、知っておくべきこと

――数年前までは“未来の技術”だったAIが、現場に定着してきた実感はありますか?

和田 本当にそう感じます。AIは『未来の魔法』ではなく、すでに現場で“使える道具”になったんだなと、日々痛感しています。
実際、ハードルを感じて「まず何から取り入れればいいのか分からない」とご相談を受けることもあります。
最初の一歩は、大きな意思決定じゃなくていいんです。目の前の小さな定型作業をAIに相談し、任せてみる。それだけでも導入の効果を感じるには十分です。
ちょっとした好奇心や挑戦心から始まって、日々繰り返し使っていくうちに、気づけば手放せなくなる。そうやって自然と、AI導入の投資対効果にもつながっていくと思っています。

今後、不動産会社の提供価値も、“人間にしかできない仕事”へとどんどんシフトしていくはずです。たとえば、相手のちょっとした表情を読み解いたり、ダイレクトではない表現で相手に考えさせるような交渉力や提案力、そして、当たり前を愚直に続けて信頼を築いていく力――そういった“人間的なスキル”の重要性はますます高まっていくと思います。

そして、そうした「人間的なスキル」と「AIを活用した価値提供」が両輪となって、これからの不動産業界を大きく変革していく。そう確信しています。
ぜひ一人でも多くの方に、この巨大なうねりに身を置くワクワクをお伝えできたらと思います。

5.次回予告

第2回では、AI普及が更に進んだ先に待つ業界構造の変化と、SaaSの拡大やブロックチェーンなど他の先端技術との連携が描く未来像を掘り下げます。AI時代の“次の波”に備えるヒントをお届けします。
なお、第2回以降は、いえらぶの別の社員をゲストに迎え、対談形式で現場の視点からAI活用をより深く掘り下げていく予定です。

▼第2回 AIが導く不動産テックの未来像――深化する統合と業界再編
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04834

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