AIで変わる不動産業界――変革の波に乗るSaaS戦略 #5
#不動産テック #インタビュー #いえらぶの人 #いえらぶのビジネス #生成AI
2026.02.25 WED
第5回 AIエージェントが変える「SaaSの定義」――入力作業の終焉とデータ基盤の真価
AIは「便利な道具」から「自律した戦力」へ
前シリーズから約半年。「Qiita Bash」をはじめとする多くの外部イベントへ登壇した際、不動産AIへの期待や質問を多数いただいたことを受け、本連載を不定期連載として再開します。
不動産業界におけるAI活用が新たな局面を迎える中で、いえらぶも昨年末に「いえらぶAIエージェント」をリリース。連載再開の初回となる今回は、リリースの舞台裏を知る広報担当の秋吉をインタビュアーに迎え、執行役員の和田とともに、今まさに再定義されようとしている「SaaSの未来」について深堀りしていきます。
▼不動産SaaSは「利用する」から「任せる」へ。「いえらぶAIエージェント」を提供開始|いえらぶCLOUD
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000717.000008550.html
▼「Qiita Bash」登壇レポートはこちら
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-05659
▼連載第1回はこちら
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04828
INDEX
1.一変した「AI活用の前提条件」――AIエージェントとは何か
2.世界を震撼させた「SaaSの死」という見出し
3.いえらぶCLOUDが担う「信頼の拠点」としての価値
4.現実世界とAIをつなぐ「ハブ」としてのSaaSの未来
株式会社いえらぶGROUP
和田 健太郎
2014年いえらぶGROUPにエンジニアとして新卒入社。開発とマネジメントの両面で早期から成果を上げ、多様なチームを率いて事業成長に貢献。自社のクラウドサービス開発だけでなく、大企業向けの大規模システム開発も主導する。
2024年から執行役員に就任。プロダクト開発全体を統括するとともに、いえらぶGROUPのAI戦略責任者として、生成AIをはじめとする先端技術の事業実装を推進。高度な知見と豊富な経験を活かし、不動産業務に革新をもたらすソリューション開発の最前線を担っている。大阪大学大学院理学研究科数学専攻修了。
株式会社いえらぶGROUP
秋吉 芹香
前職では保育士として5年間勤務し、2024年にいえらぶGROUPへ中途入社。入社当初はマーケティング領域に携わり、2025年の広報課発足時に初期メンバーとして抜擢。専任広報としてプレスリリースの発信やイベントの企画・運営、集客施策を推進。入社1年半で執筆したプレスリリースは160本を超え、2025年のプレスリリースアワード「BEST101」に選出。昨年末には「いえらぶAIエージェント」のプレスリリースを執筆した。
1.一変した「AI活用の前提条件」――AIエージェントとは何か
秋吉 連載再開、おめでとうございます!
和田 ありがとうございます(笑)。
秋吉 本連載の再開を心待ちにしていました!いち読者として、第4回までの内容が「AIエージェント」という文脈でどう書き換えられるのか、非常にワクワクしています。

今回は広報の立場を超えて、現場の疑問を代弁するインタビュアーとして参加させていただきます。よろしくお願いします!
和田 よろしくお願いします!

秋吉 昨年末にいえらぶが新たにリリースした「いえらぶAIエージェント」ですが、ありがたいことに非常に大きな反響をいただきました。私自身もプレスリリースを執筆しながら、これまでのAI活用とは明らかにフェーズが変わったという手応えを感じていました。改めて、「AIエージェント」とは、これまでのAIと何が違うのでしょうか。
和田 連載を再開するにあたって、まずはここを明確にする必要がありますね。秋吉さんが感じた「手応えの違い」は、実はAI活用のパラダイムシフトそのものなんです。これまでのAI活用は、いわば「人間が行う作業の一部を便利にするツール」としての側面が強かった。しかし、今回のリリースで私たちが提示したのは、AIが単なる道具であることを超え、自ら判断し動く「自律的な戦力(エージェント)」になるという未来です。
秋吉 これまでの連載で議論してきた「AIをどう使いこなすか」という、人間主体のフェーズから一気にステージが進んだ感覚がありますね。
和田 その通りです。昨年までの連載で紹介したAI査定や文章生成は、あくまで人間が主導権を握っており、AIに特定の作業を投げ、その結果を受け取る「一問一答」の道具でした。しかし、AIエージェントは違います。人間が抽象的なゴールを与えるだけで、自ら手順を考え、必要なツールを使い分け、目的を達成するまで自律的に動きます。

秋吉 なるほど。これまでは人間が「操作」していましたが、これからは「AIが一つの戦力として業務を代行する」という協働の形に変わるということですね。この差は、実務の上では決定的な違いになりますね。
和田 だからこそ、昨年までお話ししてきた「AIをどう使うか」という議論は、一度リセットして考える必要があります。
例えば、当社の開発現場ではエンジニアは出社してまず、夜間に自律稼働しているAIエージェントの報告を確認することから一日を始めます。AIエージェントが夜間のうちにルーチンワークやコードのチェックを終わらせておいてくれる。人間は朝一番にそれらのログを確認し、「様子のおかしいタスク」や「緊急度の高い事項」があれば修正や調整を行う。
このように、AIエージェントが自律的に動くようになると、私たちがこれまで慣れ親しんできた「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)」の役割も大きく変わっていきます。人間が操作するツールとしてのSaaSから、自律的に動くエージェントとの「協働プラットフォーム」への変化。これが今、私たちが直面している現実です。
2. 世界を震撼させた「SaaSの死」という見出し
秋吉 AIエージェントが自律的に動き、人間が「画面操作」から解放される。この未来像は非常に魅力的ですが、一方で日経新聞では「SaaSの死」といった非常に刺激的な見出しが躍り、米セールスフォースなどの大手SaaS企業の時価総額が急落したという報道もありました。SaaSを提供する側として、和田さんはこの状況をどのように捉えていらっしゃいますか。
和田 正直に言えば、今年に入ってからの株価暴落のニュースを見た瞬間は「もはや対岸の火事ではないな」と強い危機感を抱きました。しかし、その背景にある一連の技術動向を詳しく見ていくうちに、これは「SaaSという形態の終わり」ではなく、むしろ「SaaSという言葉で雑に括られていた既存概念の再編」が始まったのだと確信しました。
秋吉 再編、ですか。具体的にはどのような変化なのでしょうか。
和田 最近目にした市場分析(※)で、SaaSを3つの階層に分けて整理する考え方があり、私も非常に腹落ちしました。この考え方を借りて整理すると、今何が起きているのかがよく見えてきます。

今、危機に瀕しているのは1つ目の「画面の便利さ」だけを付加価値にしている層です。AIエージェントが画面を介さず直接データにアクセスするようになれば、人間側の操作性向上を追求したUIの価値は相対的に薄れてしまいます。
秋吉 ユーザーが「そのSaaSを開く理由」がなくなってしまうわけですね。
和田 そうです。一方で、2と3の領域の価値は高まっています。「データの信頼性」の担保と「実務の実行」の双方を担い、この両領域の価値を包括的に満たしているのが私たちいえらぶが手がける不動産業務の基盤システムです。AIが自律的に仕事をするほど、その判断の根拠となる「正解のデータ」を保持し、実際に不動産情報サイトへ掲載したり請求書を送ったりする「実社会へのコネクタ」を持つ基盤の重要性はかつてないほど高まっていきます。
最終的に正しいデータがどこにあり、誰がその権限を持ち、どのような履歴で処理されたのかという「信頼の拠り所」が不可欠になるのです。
3. いえらぶCLOUDが担う「信頼の拠点」としての価値
秋吉 AIが自律的になるほど「正しいデータ」と「実行の手足」を持つSaaSの価値が上がるというのは、非常に納得感があります。いえらぶCLOUDは、まさにその「記録」と「実行」の両面を15年以上積み重ねてきましたが、これがAI時代において具体的にどのような武器になるのでしょうか。
和田 一言で言えば、AIにとっての「唯一の正解」を提供できる点です。AIは非常に強力な知能ですが、その判断を支える「一次情報」や「実務のルール」がなければ、平気で暴走してしまいます。不動産実務は、法律や各社の規定、地域の慣習、顧客との過去の経緯といった膨大な「暗黙知」と「データ」の集合体ですよね。AIエージェントが業務を代行しようとする際、最も必要とするのは、その会社にとっての「正解」がどこにあるかという指針なんです。

秋吉 AIが自律的に動くからこそ、その行動を導くための正確な地図が必要になるということですか。
和田 その通りです。AIが迷わず正しく動くための「地図」や「辞書」の役割を果たすのが、いえらぶの中に蓄積されたデータ資産です。物件の正確な登記情報、商談の履歴、特約のロジック……これらが精緻に構造化されているからこそ、AIは初めてプロの不動産担当者と同じレベルで、迷うことなく「自律」できる。私たちが提供すべきは、もはや人間のための操作画面だけではなく、AIが信頼してその上で活動できる「実務の土台」そのものなんです。
秋吉 設計思想そのものが、人間の使い勝手から「AIの処理精度」へとシフトしているのですね。
和田 これからのSaaSの価値は、人間がいかに使いやすいかというUIの競争から、AIがいかに正確に実務を遂行できるかという「データの構造と信頼性」の競争にシフトしていきます。いえらぶCLOUDが業務基盤として蓄積してきたデータは、一朝一夕に模倣できるものではありません。この資産があるからこそ、AIエージェントが安心して業務を任せられる「脳」になれるのです。
4.現実世界とAIをつなぐ「ハブ」としてのSaaSの未来
秋吉 AIが「脳」として自律的に判断できるようになると、今度はその判断をどう「現実世界」で実行するかが課題になりそうですね。最近では「AIが人間に現実世界の仕事を依頼する」というRentAHuman.aiのような実験的なサービスも現れています。こうした動きについてはどう思われますか?
和田 非常に象徴的な動きだと思います。AIはデジタル世界では無敵ですが、現実世界には直接触れられません。「現地に行って写真を撮る」「重要事項説明で対面する」「鍵を受け渡す」といった行為は、やはり人間が介入する必要があります。将来的に、AIエージェントが「この物件を掲載したいが、現地の最新写真がないから撮影を依頼しよう」と人間にタスクを依頼するような世界は、十分あり得るでしょう。
秋吉 その時、AIと人間の橋渡しをするのもやはりSaaSの役割になるのでしょうか。
和田 そう考えています。いえらぶCLOUDは、AIからの指示を実世界のタスクへと翻訳し、適切な担当者へ割り振り、その結果を再び「正解のデータ」として取り込む。つまり、デジタルな知能と物理的なアクションをつなぐ「中継ハブ」としての役割も担うことになります。
AIが自律的に動くからこそ、その行動を統制し、人間と連携させるプラットフォームが必要不可欠になります。私たちは、単に「AIで便利にする」のではなく、AIエージェントがその上で仕事をするのが最も効率的だと判断するような、圧倒的な「コンテキスト(文脈)」と「実行力」を保持する基盤を創り上げていきます。AIにとって、いえらぶCLOUDは「最も頼れる実務のパートナー」でなければならないのです。
秋吉 和田さんのお話を伺っていると、AIの進化はいえらぶCLOUDの価値を削るものではなく、これまで私たちが守り続けてきたデータの重みを再認識させてくれる好機なのだと確信できました。

和田 もちろん、私たちも現状に甘んじているわけではありません。AIの進化速度は凄まじく、半年前に不可能だったことが今日は可能になっている。自分たち自身が一番のユーザーとして、毎日「まじか」と驚き、格闘しながらプロダクトを進化させています。
変化を恐れるのではなく、ワクワクしながら向き合う。その先にこそ、不動産会社の皆様が本来注力すべき「人間にしかできない価値」に集中できる環境があると信じています。そして、SaaSという定義が再編されるこの刺激的な時代に、自らの手でプロダクトを進化させ業界の未来を創っていける。これは、エンジニア冥利に尽きることだと日々実感しています。
秋吉 今回のお話を聞いて、不動産業界に不可欠な「データの信頼性」の重要性を改めて感じました。今後のいえらぶCLOUDの戦略にも期待が高まります。本日はありがとうございました!
