AIで変わる不動産業界――変革の波に乗るSaaS戦略 #2
#不動産テック #インタビュー #いえらぶの人 #いえらぶのビジネス #生成AI
2025.06.12 THU
第2回 AIが導く不動産テックの未来像――深化する統合と業界再編
業務効率化から価値創造へ
第1回では、「AI時代の到来をどう捉えるか」という視点から、価格査定・チャットボット・マーケティング最適化という3つの代表的な活用領域を通じて、AIがすでに不動産業務の一部として定着し始めている現状を紹介しました。また、いえらぶGROUPが最初に提供した「AIコンテンツ生成」の事例を通じて、“導入するかどうか”ではなく“どう使うか”が問われるフェーズに入っていることも明らかになりました。
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第1回 AI時代の到来――「今」を理解する
こうした背景を踏まえ、不動産テック領域でAIと他の技術がどのように連携し、未来の業界像を形作っていくのかを整理します。今回は、いえらぶGROUP執行役員の和田と、現場で業務推進を担う坂野の2人に話を聞きながら、SaaSやブロックチェーンなどの周辺技術とAIの融合がもたらす可能性を探っていきます。
INDEX
1.次世代不動産テック:AI、ブロックチェーン、IoTの連携がもたらす変革
2.いえらぶが拓く実務革新:現場起点のAI活用
3.市場動向と業界の変化:淘汰ではなく、適応の時代へ
4.AI時代を生き抜く:不動産業界で求められる新しいスキルとは?
5.次回予告
株式会社いえらぶGROUP
和田 健太郎
2014年いえらぶGROUPにエンジニアとして新卒入社。開発とマネジメントの両面で早期から成果を上げ、多様なチームを率いて事業成長に貢献。自社のクラウドサービス開発だけでなく、大企業向けの大規模システム開発も主導する。
2024年から執行役員に就任。プロダクト開発全体を統括するとともに、いえらぶGROUPのAI戦略責任者として、生成AIをはじめとする先端技術の事業実装を推進。高度な知見と豊富な経験を活かし、不動産業務に革新をもたらすソリューション開発の最前線を担っている。大阪大学大学院理学研究科数学専攻修了。
株式会社いえらぶGROUP 流通商品部
坂野 嘉昭
2017年いえらぶGROUPにエンジニアとして新卒入社。入社1年目には自ら企画したVR内見機能をリリースし、新卒2年目でマネージャーに昇格。ぶっかく自動応答、いえらぶBB、いえらぶサインといった新サービスを次々と立ち上げ、「いえらぶサイン」は総務省後援のASPICアワードにて「経営改革貢献賞」を受賞するなど高い評価を得た。ブロックチェーンやAIなど先端技術を用いたサービスの企画にも携わる。エンジニアでありながら、大手不動産会社向けの法人営業・導入コンサル・広報活動など多方面で活躍しており、不動産現場の事情にも精通している。東京大学経済学部卒業。
1.次世代不動産テック:AI、ブロックチェーン、IoTの連携がもたらす変革
――第2回は、開発の最前線でAIと向き合っている坂野さんをお招きし、不動産テックの今とこれからについて伺っていきます。
和田 坂野さん、ようこそ!
坂野 よろしくお願いします。前回の記事、非常に面白かったです。ただ、まさか自分が呼ばれるとは思っていませんでした。今回お声がけいただいた理由を伺ってもよろしいでしょうか?
和田 現場の推進役であり、いえらぶで「ブロックチェーン」をはじめとする先進的テーマについて語るなら、やはり坂野さんだなと。
坂野 そう言っていただけるのは光栄です。実際、こういった分野には以前から関心があって、どこかで首を突っ込みたいなとは思っていました(笑)。
和田 今日はぜひ、さまざまなご意見をお聞かせいただければと思います。改めて、よろしくお願いします。
――坂野さんよろしくお願いします。では、AIは掛け合わせでこそ価値を発揮するという話題が前回にも出ましたが、先端技術との連携という点では、どのような変化が起きているのでしょうか。
和田 AIはそれ単体で価値を発揮するのは難しいという話ですね。坂野さんが面白いと思っている領域ってどこですか?
坂野 私が今、特に活用が進むと考えているのはビッグデータです。ビッグデータとAIを組み合わせることで、市場予測や土地のポテンシャル分析の精度がぐっと上がります。顧客情報、物件履歴、周辺の統計データなどを基に、「この地域ではこういう属性の人がこの物件を選びやすい」といった傾向がより明確に把握できるようになってきました。
和田 “超パーソナライズ(顧客一人ひとりのニーズに合わせて物件情報を最適化すること)”の流れですね。一部の企業では、相性をスコアリングして物件提案の精度を高める取り組みも始まっており、営業スタイルそのものが大きく変化しつつあると感じます。
坂野 そうですね、いえらぶでもビッグデータを活用した分析結果を過去に公開していますし、この分野にはぜひ積極的に取り組んでいきたいと思っています。和田さんが注目している技術領域はどこですか?
和田 私は以前からIoT領域に注目しています。不動産業界の中でも、定期的に話題になる分野ですから。センサーで取得した温度や電力使用量、人の出入りといった情報をAIが分析すれば、異常検知や予兆保全が実現できたりするなと夢を膨らませています。
その入り口としては、スマートロックを用いた遠隔での鍵管理が挙げられます。実際に弊社でも一部連携していますし、将来的には「行動データを蓄積して分析したい」といったニーズが生まれることも十分考えられると見ています。

――他に注目している技術はありますか?
坂野 まだ具体的な商品企画にはなっていませんが、「ブロックチェーン」との組み合わせは非常に可能性があると感じていて、時々アイデアを膨らませています。
たとえば、空き駐車場や会議室に対して、AIが「今ここが空いている」と判断し、NFTチケットというデジタル利用券を自動発行するような仕組みです。NFTチケットはブロックチェーン上で発行される唯一無二のデジタルデータです。ユーザーはスマホで予約・利用ができ、利用後は自動で無効化されます。料金はAIが需要に応じて自動で調整し、決済もアプリ内で完結。利用履歴はブロックチェーン上に記録されるため、改ざんやトラブルの心配もありません。オーナーはスペースをそのまま副収入にでき、利用者は探す手間も受付も不要。そんな世界を想像しています(笑)。
和田 まさにそういう話を聞きたかったです。
実現には少し時間がかかるかもしれませんが、ブロックチェーンの可能性はやはり大きいです。実証実験も進んでおり、賃貸契約や登記の自動化が現実味を帯びてきました。透明性の高い分散台帳とAIを組み合わせることで、信頼性のある自動化が実現でき、契約や支払いの仕組み自体が大きく変わる可能性があります。そう考えると、これからが本当に楽しみです。
2.いえらぶが拓く実務革新:現場起点のAI活用
――AIと連携する先端技術が発展する一方で、いえらぶとしてはどのような取り組みを進めているのでしょうか。
和田 私たちはAIを、単なる業務効率化のツールではなく、不動産会社の価値創造を支えるための技術として位置づけています。初期の取り組みとしては、情報発信のハードルを下げる「AIコンテンツ生成」に着手しました。
坂野 実際、発信業務って現場の負担も大きいですし、ノウハウが属人化しやすいですよね。和田さんが第1回でも触れていましたが、私たちが目指したのは、不動産会社の誰もが使える“仕組み化された発信力”の実現です。その先に、いえらぶの価値があると考えていました。

和田 この機能を皮切りに画像生成やスタイル調整などの機能も加えることで、視覚的にも訴求力の高い情報発信が可能になりました。マーケティングやブランディングの観点からも、不動産会社にとって効果を実感しやすい内容になってきたと感じます。
坂野 最近はさらに、業務の前線に近い領域にも展開していますよね。「いえらぶAI間取り」もその一例で、間取り画像から最短1分で高品質な間取り図を自動生成できる。あれはかなり革新的だと感じています。
和田 そうですね。実は「いえらぶAI間取り」では、一般的な生成AIではなく、弊社独自の学習モデルを採用しています。不動産業界特有の表記やルールに対応できるのが大きな強みです。
坂野 たしかに、他の生成系ツールと比べても、不動産の実務に即したアウトプットになっていますよね。
和田 これまで属人的だった作図業務の標準化と高速化が進むことで、営業活動や反響対応のスピードにも良い影響が出ています。さらに、独自のスタイルにも対応可能なため、ブランディングの面でも効果を発揮しています。結果として、運用負荷の軽減と集客力の強化という両面で支援できるツールに仕上がったと思っています。
▼「いえらぶAI間取り」についてもっと詳しく知りたい人はこちら
https://www.ielove-group.jp/news/detail-984
――最近ではAIOCR機能もリリースされていましたよね。
坂野 「AIOCR機能」は、FAXや紙の申込書といったアナログ情報をAIが自動で読み取り、デジタル化する機能です。特に仲介業務で多い“申込書の読み取り”は、手間やミスが発生しやすいため、そこを自動化できたのは非常に大きいと思います。
和田 従来のOCRでは難しかった手書き文字やレイアウトのばらつきに対しても、生成AIを組み合わせることで柔軟に対応できたのがポイントですね。また、いえらぶCLOUDにそのままデータを取り込める連携性も強みで、FAXからのデータ化と入力の手間の削減を同時に実現できたのは、現場にとって大きなインパクトだったと思います。
坂野 本当に、現場のオペレーションを見直すタイミングに来ていると感じますね。業務の効率化に加えて、入力ミスや見落としの防止にもつながるので、属人化しやすい事務作業の質を全体的に引き上げる効果も期待できます。

▼「AIOCR機能」についてもっと詳しく知りたい人はこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000586.000008550.html
3.市場動向と業界の変化:淘汰ではなく、適応の時代へ
――不動産テック市場の成長について、どのように見ていらっしゃいますか?
坂野 世界的に見ても、不動産テック市場はすごい勢いで成長していますよね。たとえばFortune Business Insightsの調査によると([プロップテック市場シェア 2025 調査レポート]より)、2024年には365億ドル、2032年には899億ドルに達するともいわれていて年平均成長率で見ると11.9%。この数字、和田さんはどう受け止めていますか?
和田 私としては、ようやく不動産テックが世間から無視できない領域になってきたという手応えを感じています。国内でも、不動産投資の活発化とともにテックへの注目度は確実に高まってきました。「技術が進化しているから導入する」というより、「社会や顧客の要請に応えるために導入せざるを得ない」というプレッシャーを、多くの企業が感じているのではないでしょうか。
坂野 プレッシャー、その通りですね。和田さんのご指摘のように、これまでの『技術好き』な層だけでなく、もはや社会全体が不動産テックを必要とする時代になってきています。たとえば、やり取りをすべてオンラインで完結させたいとか、より一人ひとりに合った提案をしてほしいという要望はもはや当たり前になっています。加えて、省エネ設計やバリアフリー、サステナビリティといった社会課題への対応も求められていて、それらがテクノロジー導入を後押ししていると感じます。
――こうした業界全体の変化は、現場にも影響を与えていると感じますか?
和田 むしろ現場に近い中小規模の不動産会社のほうがその影響をより強く受けているのではないかと思います。資金や人材に制約がある中で、技術導入が課題解決の糸口になると期待されている一方、どの技術をどう導入すべきかで立ち止まってしまっている声もよく聞きます。実際には、SaaS型のツールやIT導入補助金といった公的支援を活用すれば、導入のハードルは大きく下がるのですが、「最初の一歩」を踏み出すことに躊躇われている印象があります。
坂野 本質的に求められているのは、「どの技術を導入するか」という“導入競争”ではなく、まず始めてみて、「どう使いこなすか」という“適応競争”だと思います。正解を求めて足踏みするのではなく、まずは触れてみて、トライアンドエラーを重ねていくこと。その積み重ねが今後の明暗を分けるのではないでしょうか。
4.AI時代を生き抜く:不動産業界で求められる新しいスキルとは?
――個人のキャリアについてはどうでしょうか。
坂野 ここまでの話ともつながりますが、働き方や役割の変化が非常に大きくなってきていると感じています。日々の業務がアップデートされていく中で、求められるスキルも当然変化しています。AIとどう共存し、どう活用していくかは、今後のキャリアを考えるうえで欠かせないテーマになっています。
和田 本当にそうですね。「人にしかできないこと」は何か、という問いが改めて浮かび上がってきている気がします。たとえば信頼関係の構築力や、課題の本質を見抜く洞察力といった、人間だからこそできる力が、より一層重要になってくると思います。
坂野 まさに今、自分のスキルや経験を振り返り、新しい技術と組み合わせることで、どうしたら自分の強みをさらに活かせるのかを考えるタイミングに来ていると感じます。ただ情報を持っているだけではなく、それをどう価値に変換できるかが、今問われているのだと思います。
和田 最終的には、「AIをどう使うか」を自ら判断できる人が、大きな価値を発揮するようになるでしょう。AIはあくまでも手段であり、目的ではありません。その前提に立てるかどうかが、これからのキャリアにとって大きな分岐点になると感じています。

5.次回予告
第3回では、テクノロジーが進化し続けるなかでも重要性を増す「人間ならではの価値」に焦点を当て、その本質を掘り下げていきます。
AI時代において、不動産業界で働く上でどのように専門性を発揮し、“人間にしかできない仕事”で輝いていけるのかを探っていきます。
▼第3回 AIには代替できない人間の価値――「ヒューマンタッチ」の重要性
https://www.ielove-group.jp/blog/detail-04837